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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)272号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否を判断する。

1 成立に争いない甲第一四号証の一(特許審判請求公告)によれば、本件発明は左記の技術的課題(目的)、構成及び作用効果を有するものと認められる(別紙図面参照)。

(一) 技術的課題(目的)

本件発明は、農業用スプレヤーについて、スプレーブームの開閉方式と自動開閉機構の改良に関する(第四頁左欄第一六行ないし第一八行)。

従来、農業用スプレヤーのブームの開閉は手動で行われていたが、省力のため自動化することが要望されている。また、スプレーブームは運搬及び格納時にはコンパクトに折り畳まれ、作業時にはできるだけ長く伸びることが要求される。さらに、ブームの開閉動作を迅速にして、作業進行中にブームが障害物に当たるおそれがある場合、ブームの開閉による作業能率の低下を極力小さくしなければならない。

本件発明の目的は、スプレーブームの開閉を自動的に行う油圧装置を持つと共に、合理的な折畳み方式を備えたスプレヤーを提供することにある(第四頁左欄第一九行ないし第三一行)。

(二) 構成

本件発明は、前記課題を解決するために、その要旨とする構成を採用したものである(第四頁左欄第三一行ないし右欄第二七行)。

本件発明の構成のうち、第一スプレーブーム3と第二スプレーブーム6の連結態様を実施例によつて説明すると、まず、別紙図面の第7図に示されている構成は、第一スプレーブーム3に第二スプレーブーム6の回転軸5を回転自在に軸受けし、右回転軸5に長孔31を有する被動レバー30の一端を固定し、右長孔31に駆動レバー32の中間部に固定したピン33をスライド自在に嵌め、右駆動レバー32の一端は第一スプレーブーム3にクレビス型に取り付けた油圧シリンダ34のピストンロツドの先端にピン止めし、その他端は第一スプレーブーム3の端部から直角に延びる突起35にピン止めするものである。右のように構成したため、油圧シリンダ34のピストンロツドの進退に伴つて、駆動レバー32が約九〇度回転するのに対し被動レバー30は約一八〇度回転する結果、第二スプレーブーム6は第一スプレーブーム3に折り畳まれた状態から斜線で示される開いた状態へ、又はその逆に、回転移動する(第五頁左欄第一九行ないし第三四行)。

次に、第8図はラツクピニオン機構を示すものであつて、第一スプレーブーム3に軸受けした第二スプレーブーム6の回転軸5にピニオン40を固定し、右ピニオン40にラツク41をかみ合わせ、右ラツク41を第一スプレーブーム3の長手方向に固定した油圧シリンダ42のピストンロツドに固定し、右ラック41の背面に沿うガイド43を第一スプレーブーム3に取り付けるものである。右のように構成したため、油圧シリンダ42のピストンロツドの進退に伴つてピニオン40が回転し、第二スプレーブーム6は第一スプレーブーム3に折り畳まれた状態から斜線で示される位置へ一八〇度開き、又はその逆に閉じる(第五頁左欄第三五行ないし右欄第二行)。

(三) 作用効果

本件発明のスプレヤーは、運般時及び格納時には、別紙図面の第1図及び第2図に示されているように、第一スプレーブーム3及び第二スプレーブーム6を進行方向斜め上に平行に折り畳んだ状態でトラクターに搭載されるので、スプレヤーの重心は前方に移動してトラクターの走行安定度をよくし、コンパクトに畳んだスプレーブームはトラクターの車輪に沿つているので、格納のための特別の空間は不要である(第五頁右欄第三行ないし第一〇行)。

圃場に電信柱のような障害物がある場合、従来のスプレヤーは、第二スプレーブームをほぼ水平に開閉するので、第5図に示されているようにトラクターを前進するのみでは未作業部分が残りこの部分の作業はトラクターを後退させて行わねばならないので、作業能率が低下する。これに対し、本願発明のスプレヤーは、第4図及び第6図に示されているように、第二スプレーブーム6を起立させるだけで障害物を避けることができるため未作業部分が残らず作業をそのまま進行でき、作業能率の低下を生じない(第五頁右欄第一一行ないし第二二行)。

のみならず、第二スプレーブーム6の開閉動作を迅速容易に行うことができ、第二スプレーブーム6がほぼ起立した位置では第二スプレーブーム6の重心が回転軸5のほぼ中心を通るから、第二スプレーブーム6をぐらつくことなく安定に保持することができる(第五頁右欄第二二行ないし第二七行)。

2 一方、引用例1に本件第一発明及び本件第二発明のA構成とほぼ同一の構成を有する液体散布装置(スプレヤー)が記載されておりA構成が本件発明出願前に公知であつたこと、並びに、本件第一発明のB構成に採用されているいわゆる複合リンク機構、及び本件第二発明のC構成に採用されているいわゆるラツクピニオン機構がいずれも本件発明出願前に周知慣用の技術であつたことは、被告も争わないところである。

そして、成立に争いない甲第一八号証ないし第二一号証(昭和四二年実用新案登録出願公告第三八一二号公報、昭和四九年特許出願公開第二四七六六号公報、昭和四九年特許出願公開第六九四五〇号公報、昭和五一年特許出願公開第九一一七四号公報)によれば、スプレーブームを適宜の機構によつて起立回動する試みも本件発明出願前に多く行われていたことが明らかであるから、本件発明の技術的課題には格別の新規性はないといわざるを得ない。したがつて、当業者が、前記のとおり公知であつたスプレヤーの改良のために、そのブームを起立回動させる機構として、周知慣用の技術であつた複合リンク機構あるいはラツクピニオン機構を採用することに、何らかの困難が存したと考えることはできない。

この点について、被告は、A構成にB構成あるいはC構成を組み合わせたことによつて本件発明が奏する作用効果の顕著性を主張するが、各結合に基づく作用効果は当業者ならば当然に予測し得る域を越えるものとは致底認められないから、被告の右主張は失当である。

したがつて、本件第一発明及び本件第二発明の特許は、特許法第二九条第二項の規定に違反してなされたものであつて、ともに、同法第一二三条第一項第一号の規定により、無効とされるべきである。

3 以上のとおりであるから、本件発明はその特許出願前に日本国内において公然実施された発明に該当しないのみならず、本件第一発明のB構成及び本件第二発明のC構成は原告が援用する引用例あるいは周知例からは当業者が容易に想到し得たものと認められないとした審決の判断は誤りであつて、審決は違法なものとして取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

1 特許請求の範囲第1番目に記載されている発明(以下「本件第一発明」という。)の要旨

メインフレーム2の両端部に少なくとも九〇度回動自在に、左右第一スプレーブーム3の基部を軸着し、

前記左右第一スプレーブーム3の先端部に、少なくとも一八〇度起立回動自在に、左右第二スプレーブーム6の基部に固着した回転軸5を軸受けし、

左右第二スプレーブーム6を独立に回動する。往復運動を回転運動に変換する機構を含む油圧シリンダ型アクチユエータ34を、左右第一スプレーブーム3の先端部と左右第二スプレーブーム6の基部との間に設け、

前記油圧シリンダ型アクチユエータ34のピストンロツド部の進退によつて、左右第二スプレーブーム6を、所定の角度、回転可能にしたスプレヤー(A構成)であつて、

左右第一スプレーブーム3の先端部に、ブーム長手方向に直交する突起部35を固定し、前記突起部35に駆動レバー32の一端をピン止めし、その他端を左右第一スプレーブーム3にクレビス型に取り付けた油圧シリンダ型アクチユエータ34のピストンロツド部にピン止めし、

前記回転軸5に、長孔31を備えた被動レバー31を固定し、

前記長孔31を、前記駆動レバー32の中間に設けたピン33に係合させ、

前記油圧シリンダ型アクチユエータ34のピストンロツドの進退によつて、前記回転軸5を回転するようにしたこと(B構成)

を特徴とする、スプレヤー。

2 特許請求の範囲第2番目に記載されている発明(以下「本件第二発明」という。)の要旨

メインフレーム2の両端部に、少なくとも九〇度回動自在に、左右第一スプレーブーム3の基部を軸着し、

前記左右第一スプレーブーム3の先端部に、少なくとも一八〇度起立回動自在に、左右第二スプレーブーム6の基部に固着した回転軸5を軸受けし、

左右第二スプレーブーム6を独立に回動する、往復運動を回転運動に変換する機構を含む油圧シリンダ型アクチユエータ42を、左右第一スプレーブーム3の先端部と左右第二スプレーブーム6の基部との間に設け、

前記油圧シリンダ型アクチユエータ42のピストンロツド部の進退によつて、左右第二スプレーブーム6を、所定の角度、回動可能にしたスプレヤー(A構成)であつて、

前記回転軸5に、ピニオン40を固定し、

左右第一スプレーブーム3に、その長手方向に沿つて油圧シリンダ型アクチユエータ42を取り付け、

前記油圧シリンダ型アクチユエータ42のピストンロツドに、前記ピニオン40と係合するラツク41を設け、

前記油圧シリンダ型アクチユエータ42のピストンロツドの進退によつて、前記回転軸5を回転するようにしたこと(C構成)

を特徴とする、スプレヤー。

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